「テブナンの定理の公式は知っているけれど、どう使えばいいか分からない」「電験三種の理論科目で出てくるけど、意味不明で理解できない」「実務で何の役に立つのかピンとこない」と悩んでいませんか?
テブナンの定理は、一見すると複雑な電気回路を「1つの電源」と「1つの抵抗(インピーダンス)」だけの超シンプルな回路に化けさせる魔法のような定理です。
こんにちは、当ブログ管理人のデンスケです。私は電気系最高峰の国家資格である「電験一種」をはじめ数々の難関資格を完全独学で取得し、それらの知識を武器に現役のインフラエンジニアとして10年以上の実務経験を積み上げてきました。これまで資格勉強と現場の最前線で培ってきた知見をもとに、教科書的な知識が実際の実務でどう活かされるのかをどこよりもリアルにお届けします。
この記事では、テブナンの定理の基本や公式の意味、直流・交流どちらも解ける具体的な計算例(例題)を解説した上で、電力系統の事故計算やインピーダンスマップといった実務の現場でどのように役立っているのかを、現役エンジニアの視点で分かりやすく解説します。
テブナンの定理の基本と公式
テブナンの定理とは、複雑な電気回路の2点間にインピーダンス(抵抗など)を接続したとき、そこに流れる電流を簡単に求められる定理です。
どんなに複雑な回路であっても、2点間から見た左側の回路は、以下の公式で表される「等価回路(1つの電圧源と1つのインピーダンスが直列に並んだもの)」に置き換えることができます。
この定理の素晴らしいところは、回路が直流回路であっても、インダクタンスやキャパシタンスを含む交流回路であっても、全く同様に適用できるという点です。
💡 テブナンの定理の公式
任意の回路の2点間に、あるインピーダンス Z を接続したとき、そのインピーダンスに流れる電流 I は以下の式で表されます。
I = V / (Z + Z’)
- I:接続したインピーダンスに流れる電流 [A]
- Z:接続する負荷インピーダンス [Ω]
- V:インピーダンスを接続する前の2点間の電位差(開放電圧) [V]
- Z’:2点から回路側を見た合成インピーダンス(等価インピーダンス) [Ω]
※計算時、回路内の定電圧源は短絡(ショート)、定電流源は開放(オープン)にする。

テブナンの定理を活用した電気計算例(例題)
実際にテブナンの定理を使って、以下の回路の2点間に 8.018 Ω の抵抗を接続した場合に流れる電流の大きさ I を求めてみましょう。電験三種の「理論」対策としても非常に役立つステップです。

手順は「① 開放電圧 V を求める」「② 等価インピーダンス Z’ を求める」「③ 公式に代入する」の3ステップです。
ステップ1:【開放電圧】を求める計算手順とキルヒホッフの法則
まずは、2点間に何も接続しない状態(開放状態)での2点間の電位差を求めます。以下のように各枝路を流れる電流 I①、I② を定義します。

この電流 I①、I② を求めるにあたっては、お馴染みのキルヒホッフの第2法則(電圧則)を活用します。
キルヒホッフの第2法則(電圧則)とは?
回路の中の任意の一つの閉回路において、その閉回路を一巡するとき、電位差の和は0となる。
キルヒホッフの電圧則を用いて、2つの閉回路について方程式を立てていきましょう。
① 左側の閉回路(緑の枠)に着目

回路を一巡するときの電位差の和は0になるため、以下の式が成り立ちます。111 - 2I① + 3I② - 111 = 0
これを変形すると、次の通りとなります。I① = 1.5I②
② 右側の閉回路(緑の枠)に着目

同様に回路を一巡するときの式を立てます。111 - 3I② - 1 × (I① + I②) - 20 × (I① + I②) = 0111 - 3I② - 21(I① + I②) = 0
この式に、先ほどの I① = 1.5I② を代入して整理します。111 - 3I② - 21(1.5I② + I②) = 0111 - 3I② - 52.5I② = 0111 = 55.5I②→ I② = 2 [A]
連動して、I① = 1.5 × 2 = 3 [A] と求まります。
よって、インピーダンスを接続する前の2点間の電位差(開放電圧 V)は、以下のようにオームの法則で一発で求められます。V = 20 × (I① + I②) = 20 × (3 + 2) = 100 [V]

ステップ2:【等価インピーダンス(合成抵抗)】を求める計算手順
次に、すべての定電圧源を短絡(ショート)させた状態で、2点間から回路側を見た合成インピーダンス Z’ を求めます。

- まず、左側にある 2 Ω と 3 Ω の並列抵抗を計算します。
(2 × 3) / (2 + 3) = 1.2 [Ω] - これに 1 Ω の抵抗が直列に接続されるため、合計で
1.2 + 1 = 2.2 [Ω]となります。 - 最後に、この 2.2 Ω と右側の 20 Ω の並列合成抵抗を計算すれば、求める等価インピーダンス Z’ が求まります。
Z' = (2.2 × 20) / (2.2 + 20) = 44 / 22.2 ≒ 1.982 [Ω]
ステップ3:テブナンの【等価回路】からオームの法則で電流を算出する
これまでに求めた値(開放電圧 V = 100 [V]、等価インピーダンス Z’ = 1.982 [Ω])を使い、テブナンの定理によるシンプルな等価回路に置き換えます。

ここに、本来接続したかった負荷抵抗 Z = 8.018 Ω を接続すると、流れる電流 I はただの直列回路の計算(オームの法則)だけで簡単に計算できます。
I = V / (Z' + Z) = 100 / (1.982 + 8.018) = 100 / 10 = 10 [A]
複雑に見えた回路も、テブナンの定理を使えば驚くほどすっきりと解くことができますね。
実務(電力系統の事故計算)でのテブナンの定理の活用
「試験問題が解けるのは分かったけれど、実務のどこで使うの?」と思いますよね。実は、テブナンの定理が最も圧倒的な威力を発揮するのは、電力系統の「短絡事故・地絡事故(故障計算)」の現場です。
複雑な【電力系統】を一瞬でシンプルにする
実際の電力系統には、無数の発電機や変圧器、送電線が網の目のように連系しています。もし、ある地点でショート(短絡事故)が起きたとき、どれだけの激しい事故電流が流れるかをキルヒホッフの法則だけで大真面目に計算しようとすると、膨大な方程式になり日が暮れてしまいます。
ここでテブナンの定理の出番です。短絡や地絡時に事故点インピーダンスを介して接続される事故点を、テブナンの定理の2点間と考え、事故点より上流にある無数の発電機や複雑な送電網を、たった1つの電圧源 V と1つの合成インピーダンス Z’ にまとめてしまうのです。
では、電力インフラの最前線では、具体的にどのようなステップを踏んで系統をシンプルにしているのでしょうか? プロの現場で使われる実務的なアプローチを見ていきましょう。
プロの現場の必須知識「対称座標法」と単相化
より実務的な話をすると、電力会社やプラントの故障計算は「対称座標法」という表現方法を使って計算されるのが一般的です。
「対称座標法」は、電気回路を「正相回路」「逆相回路」「零相回路」の3つに分解して計算する方法ですが、実務で最も過酷となる「三相短絡事故(電気的には三相地絡と同じ)」を対象にする場合は、なんと「正相回路」のみの計算で完結させることができます。
では、なぜ複雑な三相交流の事故が、正相回路(たった1相分の回路)だけで計算できてしまうのでしょうか?
その秘密は、三相交流回路のバランスの良さにあります。
三相平衡負荷へ電力を供給するときや、三相短絡事故が起きたときには、仮想の中性線には電流が流れません(Ia + Ib + Ic = 0)。中性線に電流が流れないということは、複雑な三相交流回路を、独立した「3つの単相交流回路」の集まりとしてバラバラに分解して考えても良いということになります。
通常、電気定数は3相ともすべて同じとみなすため、わざわざ3相すべてを計算する必要はありません。1相分(a相)のみに着目して計算を行い、残りのb相・c相は結果の位相を120°ずつずらせば良いだけになります。
この「3相のうち1相分だけを抜き出した単相交流回路」こそが、実務で用いられる「正相回路」の正体(イメージ)です。

実際の複雑な電力系統を、この正相回路(単相回路)で表現すると以下のようになります。


発電機が負荷に電力を送っている状態(負荷供給運転時)であっても、無負荷で回っている時であっても、そこから供給される事故電流の大きさにはそれほど大きな違いはありません。そのため、実務の計算を単純化するため、「無負荷運転時」を仮定して負荷しか繋がっていない系統は無視して表現するのが一般的です。
さらに、中性線の表現すら省略した「単線図」の表現を用いることで、回路はここまでシンプルになります。

実務の武器「インピーダンスマップ」
電力会社などでは、あらかじめ発電機までのインピーダンスや、ある地点から系統側を見込んだ合成インピーダンスを整理した「インピーダンスマップ」と呼ばれるデータベースを整備しています。

現場のエンジニアは、このインピーダンスマップを活用することで、複雑な故障計算に必要な条件(インピーダンスの値)を一瞬で手に入れることができるようになっています。
ここで、「なぜ系統にぶら下がっているたくさんの需要家の負荷(抵抗)は無視して、発電機までのインピーダンスだけで計算していいの?」と疑問に思う方もいるかもしれません。
仮に、真面目に需要家の「負荷インピーダンス」まで考慮して正相回路を組もうとすると、回路図は以下のようになってしまいます。

例えば、基準容量100MVAとして50MW の負荷を単位法(p.u.)の負荷インピーダンスで表現する場合、単位法表現の電力の逆数(1 / 0.5)である「2 p.u.」として表されます。
しかし、このような負荷インピーダンスを真面目に全て組み込んだ複雑な系統を手計算で解くのは、実質不可能です。
だからこそ実務では、「発電機から供給される激しい事故電流に比べれば、末端の需要家が消費する負荷電流なんて微々たるもの(無視できる)」と割り切ります。
この大胆な割り切り(無負荷仮定)ができるからこそ、複雑な系統をテブナンの定理でガッチャンコしてインピーダンスを一本化する手法が、実務における最強の王道アプローチになるのです。
インピーダンスマップの裏側:テブナンの定理をどう適用するか?
では、いよいよ整理されたインピーダンスマップに対して、「テブナンの定理」を適用して事故電流(三相短絡電流)を計算してみましょう。
実務ではインピーダンスマップ(単線表現)を見ながらサクサク計算を行いますが、「なぜテブナンの定理が使えるのか?」という理論を正しく理解するために、あえて省略していた「仮想の中性線」を戻した回路図でその仕組みを覗いてみます。

テブナンの定理を適用するにあたり、三相短絡事故が起きた「事故点」と「仮想の中性線」の2点間(端子)に着目します。
この2点間から系統側(左側)を見上げたときの合成インピーダンス Z’は、インピーダンスマップ上に矢印表記で示された系統インピーダンス(各インピーダンスを直並列計算して算出済み)に書き直すだけで、たった1つのインピーダンスとして扱うことができます。
さらに、事故が起きる直前の系統電圧(テブナンの定理でいう開放電圧 V は、実務において基本的に「定格電圧(1.0 p.u.)」として扱います。各発電機は事故が起きる前、事故点の電圧がちょうど定格電圧になるように適切に制御されて運転しているため、「事故前の各発電機の内部電圧が具体的に何Vか」を細かく計算して意識する必要はありません。
つまり、電圧 V の計算を完全に省略(V = 1.0 p.u.)し、事故点と中性線の2点間から見た系統全体の合成インピーダンス Z’ を求めるだけで、テブナンの定理の公式から一瞬で三相短絡電流(事故電流)を算出できるのです。
💡 テブナンの定理による三相短絡電流の計算式(単位法表現)
Is = 1.0 / (Z’ + Zf)
- Is:三相短絡電流 [p.u.]
- 1.0:事故直前の開放電圧 V(定格電圧) [p.u.]
- Z’:事故点から系統側を見込んだ合成インピーダンス [p.u.]
- Zf:事故点インピーダンス(事故点での接触抵抗がない「完全短絡」なら Zf = 0) [p.u.]
図の例題の場合は、Is=1.0 p.u. / (0.108 p.u. + 0 p.u.) = 9.26 p.u. と求めることができます。
このように、インピーダンスマップで正相回路を表現したあと、テブナンの定理を使うことで、あの網の目のように複雑だった送電網が「たった1つの電源(1.0 p.u.)」と「1つの合成抵抗(Z’)」だけの直列回路(パズル)に化けるのです。
テブナンの定理は、机上の空論やテストのためのパズルではなく、電力インフラの安全を守る「保護協調の計算」や「遮断器の容量選定」といった最前線で、毎日使われている極めて実践的な定理です。
まとめ
- テブナンの定理とは、複雑な回路を「1つの電圧源」と「1つの抵抗」に超シンプル化する定理
- 直流・交流を問わず適用可能で、計算は「①開放電圧 V」「②合成抵抗 Z’」「③公式代入」の3ステップ
- 実務では、対称座標法や単線図、インピーダンスマップと組み合わせることで、電力系統の事故電流計算を圧倒的にラクにするために不可欠な武器となっている
「計算を少しでもラクに、シンプルにしたい」という先人たちの知恵の結晶がテブナンの定理です。実務での圧倒的なメリットが分かると、電験の勉強や業務での回路図の見え方も一気に変わってくるはずです。ぜひ、あなたの実務や資格取得に役立ててください!

